御師のお話②仕事編~御師はツアコンにあらず
よく「御師は日本初のツアーコンダクターです」と言われます。
確かに。
御師は檀那(お客)の旅のルートを案内し、宿を確保し、
伊勢に着いてからも過不足なく旅のお世話をします。
今で言うところのツアーコンダクターそのものですよね。
ツアー(お伊勢参り)に誘う訪問営業だってしているのですから。
ですが、御師の最大の仕事はツアーコーディネートではありません。
「神宮に御神楽を上げさせること」なのです。
伊勢神宮は「私幣禁断」だと聞いたことがあるかと思います。
「私事(プライベート)のお願いはしちゃダメです」ということです。
現在でも、本殿での私幣は禁止。
ですので「お願い叶えて~」とお賽銭を神様に奉ることも本来は禁止なのです。
神宮に参拝された皆様は本殿前に白布が強いてあるのをご覧になっているかと思いますが、
この白布は「お賽銭はここにどうぞ」ではなく、
「お賽銭なんて投げられたら神域が穢れるから、仕方無しに敷いておく穢れ封じ」なのです。
ではお願い事はどこで?となりますよね。
神様の活動的な荒魂が祭られている宮でなら…と近年は言われたりもしていますが
本来神宮が「お願い事どうぞ」と謳ってるのが「御饌」と「御神楽」という祈祷です。
「神宮のご祈祷は「皇室の弥栄」「国家安泰」、「五穀豊穣」の祈願に加えて、皆様のお願い事をご神前にお届けします。神恩感謝、家内安全、身体健全、商売繁盛、事業繁栄、安産祈願、お宮参り学業成就、交通安全、厄祓い、除災招福、心願成就、病気平癒など」
と神宮HPの「御饌」と「御神楽」のページにも書かれています。
「御饌」と「御神楽」、聞き馴染みが薄い言葉だと思います。
「御饌」は神様にお供えをしてお願いの祝詞を奏上することで、
「御神楽」は神様に感謝の舞を奉納することです。
今は内宮外宮共に、神楽殿で上げることが出来ます。
ですが、神宮は近代までは神域内に一般人が立ち入ることすら出来なかったのです。
そこで神楽を上げるために神宮とのパイプ役を担ったのが、そう、御師なのです。
(↑現在の神楽舞イメージ。鳥羽一之宮伊雑波神社例祭にて)
御師の話①にて御紹介しましたが、御師は元々は神宮の神官でした。
ツアーコンダクターのように外部受注ではなく、神宮が集客を行っていたのです。
そのメインイベントが「御師邸で御神楽を上げる」ことでした。
現在の神楽にはお納めする初穂料によって以下のランクがあります。
15,000円以上 | 15名まで | 倭舞 | |
50,000円以上 | 50名まで | 倭舞・人長舞 | |
100,000円以上 | 100名まで | 倭舞・人長舞・舞楽1曲 | |
(神宮HPより抜粋)
勿論昔も初穂料によって神楽にランクがありました。
そしてこの初穂料が神宮の、そして御師の懐事情に左右するのは言わずもがな…ですね。
収入の大きな発生源が「旅」ではなく、神楽という「神事」ですので、
「御師はツアコン」ではなく、「御師は神宮の官吏」で「神宮からの派遣営業マン」なのです。
こちらは現存する唯一の御師邸「丸岡太夫邸」に残る御神楽奉納の額です。
大きな神楽を上げると、このような立派な額が掲げられ、更に神宮大麻などの授与品があったそうです。
神宮徴古館には、近世の大大神楽の図が残されています。
伊勢大々神楽之図|展示・所蔵品(コレクション)|神宮徴古館・農業館|神宮の博物館
これだけの立派な御神楽ですから、どれだけの初穂料が納められたことでしょう。
そしてこの御師邸の広大さといったら・・・!
次回はこのような莫大なお金を切り盛りしていた御師の暮らしについてお話したいと思います。