伊勢河崎ときどき古民家

伊勢と河崎の町と神社と古民家と好きなものに囲まれた日々のコラムです

【125社めぐり】 所管社 御酒殿神

内宮 所管社 御酒殿神 (みさかどののかみ)

御祭神 御酒殿神 (みさかどののかみ)

 所在地;内宮境内

 

外宮 所管社 御酒殿神 (みさかどののかみ)

御祭神 御酒殿神 (みさかどののかみ)

所在地;外宮境内

 

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所管社・御酒殿神は外宮・内宮共に祀られる神です。

 

古くは神様へ捧げる清酒を御酒殿醸造されていたと言い、

御酒殿神はその守護神です。

 

現在は忌火屋殿で神酒は造られていて、

酒殿は祭礼の前にその神酒を一時的に収める倉庫のようになっています。

 

そもそも古代は御酒殿は一棟ではなく、

酒殿。蔵、政務所、盛殿、大炊屋といくつかの建物から成ったようです。

近世になり、御酒殿で神酒の醸造を行わなくなって1棟に集約されたと推察します。

 

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内宮の御酒殿神は神楽殿の裏手、

由貴殿の左隣(向かって右)に建ちます。

荒祭神に参拝を終えて道なりに歩いてくると右手になります。

左手には四至神が祀られています。

 

三節祭(6月12月の月次祭神嘗祭)にこちらに神酒が納められます。

その際に御酒殿前では酒殿が行われます。

 

神宮のHPにも

「内宮神楽殿の東側に隣接する御酒殿において、

 6月の月次祭の由貴大御饌にお供えする御料酒(白酒・黒酒・醴酒・清酒)がうるわしく醸成できるよう、

 また全国酒造業の繁栄を御酒殿の神にお祈りします。」

と告知がされます。

(ちなみに6月1日10:00~と日時も記載されます。12月も1日です。)

 

一般参拝客は、参道から垣間見ることだけできるようです。

その様子は大先輩のブログに…

御酒殿祭(2012年12月) – 神宮巡々

 

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神様に奉納する白酒・黒酒・醴酒・清酒とは

それぞれどんなお酒なのでしょう?

 

映画『君の名は』に出てくる巫女の口噛酒をイメージする方もいらっしゃるかと思いますが、

割合と近いものではあります。

 

古代の御酒殿神では、

火無浄酒(ほなしきよさけ)と火向御酒(ほむけのかんみき)という

二種類の神酒が造られたそうです。

火無浄酒は字の通り、粢(しとぎ、米を水に浸して砕いた物)に

御井神社の御井から汲んだ水を加えただけの酒であったといいますから、

巫女が噛んで砕かないまでも、口噛み酒と同じ造り方ですね。

 

現在の神酒の製法は古代とは異なります。

 

白米、米麹2、上御井神社の御井の水を酒母なしで一度に仕込む

どぶろくにごり酒)です。

これが、白酒です。

 

仕込んでから12日後、

クサギ」と呼ばれる草木の灰を加えたものが黒酒です。

 

醴酒は「一夜酒」と呼ばれる、米粒の残った状態のものだそうで、

アルコール度数が1%未満なので、法律上「酒」にはあたらないそうです。

 

白酒・黒酒の製法は濁り酒ですが濾過を行うため、

日本の法律上「清酒」扱いとされるようです。

 

近世までは内宮において、

酒作物忌(さかとくのものいみ)が忌火屋殿白酒を、

清酒作物忌(きよさけつくりのものいみ)が御贄を清める場所と同じ場所黒酒醸造したといい、

黒酒には五十鈴川の清流の水を加えて醸造していたと伝わりますが、

明治以降は神職白酒・黒酒醸造するようになったそうです。

 

では、清酒は?よいいますと、

神戸の灘の「白鷹」が奉納されています。

 

「アマテラス大神もやっぱり上方のお酒がお好き?」

と江戸時代の江戸っ子ならば思いそうなセレクトですが、

大正時代、皇學館大学の初代学長と白鷹の社長が御友人で、

更に白鷹を伊勢で取り扱っていた御師・澤潟大夫が学長と御親戚…という

がっちり縁故によるものがはじまりのようです。

 

伊勢らしい御縁ともいえますし、

御師恐ろしい子っ!」とも言えますね。

 

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近世以降はどうやら内宮で白酒・黒酒・醴酒の醸造が行われているようですが、

外宮の御酒殿にも近世まで隣に務所庁があり、

斎殿と3つの炊事所が並び、

直会が前庭などで行われ、外宮の祭儀において重要な場所であったと言います。

 

現在は忌火屋殿の奥にあり、

参道からは直接参拝出来ません。

忌火屋殿も確認しにくいですが、

五丈殿などの横を北御門方面に歩くと

御厩の手前に木々に隠れて建っていて

朝夕は日別朝夕大御饌祭のための神膳を準備するために煙がたっています。

更にその奥の正宮側に御酒殿があるのですね。

 

ちなみに、日別朝夕大御饌祭の際には清酒が御酒殿に納められるようです。

また、三節祭以外の神事で酒を神前に納める際には

清酒と共に醴酒も御酒殿に納めるそうです。

 

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 御酒殿祭には、酒造業の皆様のご繁栄も祈願することから

実は伊勢神宮は酒造の神様でもあるともいえるのですが、

外宮の豊受姫の伝説にも酒造に関わるものがあるのです。

 

天女が天から降りてきて水浴びをしていると、

それを目撃した人間がその羽衣を隠し、

天女は天に帰れなくなってしまう…

という有名な天女の羽衣伝説がありますが、

丹後国風土記」では、

 丹波の山中に比治真奈井と呼ばれる井戸に天女が下りてきたとし、

その天女こそが豊受姫であるとしています。

 

天に戻れなくなった天女は、羽衣を隠した人間(老夫婦)とともに暮らしていましが、

天女は一杯飲めば、万病に効くという酒を醸造し、

この酒を売ることで老夫婦は大金持ちとなるのです。

 

その後、天女は家から追い出され、

天に帰れにさまよった末に丹後に至り、

奈具社に鎮まったのが豊受大御神とされています。

 

このことから「豊受姫」=「外宮」を醸造の神とする酒造メーカーさんもあるようですね。

中谷酒造株式会社: 伊勢神宮が実は酒の神様だった!?【酒蔵便りvol.6】



今日の晩酌を美味しくいただけるの

豊受姫御酒殿神のおかげ…と献杯

 

(写真撮影;2018~19年)

 

余談;

ところで「白鷹」ですが、

河崎の商人館にも大きな看板の残る「白鹿」と血縁があるそうで…。

歴史背景|白鷹株式会社|蔵元紀行|地酒蔵元会

商人館も元々は酒蔵でしたので、

ちょっとその繋がりも垣間見えた感じがします。

 

余談2;

こちらのサイト、とても詳しくてオススメです!

30 神酒1・・・酒類製造免許を持ちお酒を醸造する神宮 | FOOCOM.NET