御師のお話⑧お土産編~伊勢参り勧誘のマストアイテムは伊勢の特産品
御師華やかかしり頃、各々担当地区に派遣された下級御師や手代たち。
人々に神宮の信仰を説きつつ、お伊勢参りを勧行します。
現在でも営業マンさんは手ぶらではお客様の元には行きませんよね。
駅前で広告をもらってもらうにもティッシュをつけちゃう日本です。
神宮営業マンの御師たちも勿論手土産を持参して、伊勢の魅力を説きます。
今日はその「御師のお土産」について見ていきましょう。
御師の手土産は、神宮の信仰を説くアイテムの他は伊勢の特産品。
神宮だけではなく、伊勢国はこんなに素晴らしいんですよ。
来てみたいでしょう?
と、勧誘します。
具体的にはこのようなものがありました。
大麻、暦、
のり、ふのり、のしあわび
伊勢白粉、墨、
帯、反物、
櫛、扇、
茶、ふし(染料)
まくり(虫下し)…などなど
「大麻」は「神宮大麻」と呼ばれた神札です。(麻薬ではありません)
「幣」とも呼ばれ、これは神楽を上げるといただけるものでもありました。
「暦」は「伊勢暦」「神宮暦」と呼ばれるものです。
御師の出向いた先には農村も数多くありました。
農業の社会では暦は貴重な行動の基準となるものですので、大変人気が高かったそうです。
この二品はまず、お土産の一番のマスト品だったと思います。
当時は御師から以外は入手付加のアイテムだったからです。
その他のお土産の種類が多いのは、差し上げる檀那によって異なるものを差し上げていたからです。
顧客さんへの手土産を想像してみてくださると良いかと思います。
その方のお住まいや生活レベルなど、その方その方に喜ばれるものをセレクトするのは
今も昔も変わりませんよね。
まず、海苔、ふのり、のしあわび、こちらは神様の御食事にも出されます(↓写真参照)、
伊勢志摩の大事な特産品です。
海のない国の人には珍しく贅沢に映ったでしょうし、
今でもお土産の定番に「海苔」があるのと同じ理由で、「軽い」「日持ちがする」ことも
あちこちを営業行脚する手代たちにとっては重要だったと思います。
(鳥羽海の博物館蔵 御饌再現レプリカ)
伊勢白粉は、平安時代の「今昔物語」にも登場する丹生と射和の名産です。
丹生ではその字の通り水銀が産出しました。
当時の白粉は水銀が使われていましたので、産地直送の名産品、高級白粉だったのですね。
これは大檀那さんの奥方たち(檀那には大名もいますから)には大人気だったことでしょう。
(白粉と水銀中毒については当時はあまり知られていなかったと思います)
そして同じく上顧客様(大檀那さん)へのお土産だったと思われるのが、
帯、反物、ですね。
伊勢商人は木綿で財を成した人が多いことからもわかるように、
伊勢の木綿は大人気アイテムでしたから、
「これはまだ江戸にもないお品」なんて言って献上したのでは?と想像してしまいます。
今でも松阪木綿や伊勢木綿はお土産に人気です。
特に伊勢木綿(↑写真)は最近は更に人気となっています。
(伊勢木綿についてはまた後日…)
そして実は伊勢は呉服屋さんが多いんです!
その流れがあったためか、昭和に入っても70~80年代は
伊勢はお洋服屋さんが多いファッション最前線エリアだったとか…。
これは木綿効果なのか、伊勢に人が集まっていたためか、その両方なのか?
時々聞き込みをしていますが、解明されていません。
ふし(染料)も木綿を染める染料が必要だった土地柄故、
栽培が多かった故の特産品かと推察が出来ます。
「これはこちらの地方にはない珍しい色の染料で…」というものもあったかと思いますし、
「伊勢で木綿をこれで染めてます」というだけでも喜ばれたかと想像できますね。
櫛や扇は神宮の職人さんからの流れで、多く作られていたのだと思いますが
(今でも伊勢の一刀彫りは有名ですね)
こちらも(特に扇は)上流のお客様へのお土産だったと推察されます。
お茶。これは伊勢国は今も実はお茶処なんです。
ですので、言うに及ばす、ですね。
まくり、という虫下しは今にも続く「萬金丹」かその原型かと思います。
「正露丸」のような御腹の薬です。
これは手代も旅のお供にしていたかもしれませんよね。
そこで伊勢路を行くお客様にも差し上げるようになったのかも???
以上、御師の手土産事情を見て来ましたが、いかがでしょうか。
こうして御師は「一生に一度は行ってみたいな」と思わせることが出来ていたのです。
神宮の御神徳だけではなく、伊勢国の魅力も後押しをしていたのです。
ディズニーランドのお土産をもらって「行きたいなぁ」と思いますよね。
そこにはアトラクションだけではないディズニーの魅力が詰まっているから…と同じだと思います。
以前にも触れましたが、こうして考察してみると、
日本人がお土産をいっぱい買って御近所や会社にバラ撒きたくなる文化は、
この御師のお土産作戦がどこの地方にも根付いているからでは?と思ってしまいます。
欧米ではスーベニア(お土産)は自分の旅の思い出の記念品で、
友達に買うのは「プレゼント」という認識です。
そもそもスーベニア=土産、というのが間違いでは?と学生時代に留学先で思いました。
日本のお土産には「賄賂(袖の下)」って感覚もありますし(笑)。
ですが、このお土産バラ撒文化、日本を通して海外に波及してる感じがしませんか?
だとすると、御師のこの「お土産作戦」は時代を超えた万国共通の必勝テクだと言えます。
御師、やるなぁ~と改めて思いますね。