御師のお話⑦廃止後編~龍大夫と宇仁舘太郎大夫に見る明治以降の御師たち
明治4年御師制度は廃止されます。
当時の欧米思想から来る廃仏毀釈や神仏分離の流れから仕方がないものだったのかもしれません。
(どちらも欧米が日本人から愛国精神と文化を排除しようとした悪法だと思っていますが)
今日は御師「龍太夫」と「宇仁舘太郎大夫」にスポットを当て、解体後の御師の姿を見てみようと思います。
現在も100年以上続く「山田舘」や新鋭のホテルなど、素敵な宿が多い外宮界隈ですが
明治~昭和初期にかけては沢山の豪華な旅館の並ぶ立派な景観がそこにはありました。
その背景にあるのが「御師廃止」でした。
明治4年に御師が廃止されると、多くの御師たちは強制的に収入源を失った状態になります。
そこで今までの経験を最も生かせる職業を始めていきます。
そう、旅館業です。
以前お話に出てきました「龍大夫」も「旅館龍大夫」の経営に乗り出します。
280もの部屋を持つ大きな旅館だったようで、
明治13年、天皇陛下が陸軍機動演習の御統監のための行幸の際に行在所とされたそうです。
(現在も跡地に石碑が残っています)
御師の新しいステージですね。
ですが、もともと旅籠を経営していた町宿系の旅館は面白くありません。
旅館の自由化による旧御師系VS町宿系の争いがこうして勃発します。
御師たちが良い檀那(顧客)を持っているのだから優勢な感じもしますが、
さすがは町宿の商魂もすさまじかったようで、
御師の看板ともいえる名前を旅館に売却するところも出て来ます。
龍大夫も明治33~34年頃に、大泉忠生という人に旅館を売却しています。
この大泉ファミリーはやり手だったようで、その父角屋和惣冶は
明治6年に「人長大夫邸」を取得し「角屋」を始め、
明治27年にその隣の「有朧屋」を買収して「神風舘」としました。
その後、神宮の神苑の拡張の際に
(現在の参道側の入口の創設時。元々は北御門が正門でした)、
そういった時勢も、龍大夫が売却を決意した背景にあったのでは?とも言われています。
現在の伊勢市駅前。
ここには旅館「宇仁舘」がありました。
大変大きな旅館で、別館など豪華な建物が外宮界隈にあったそうです。
その名前のルーツが御師「宇仁舘太郎大夫」です。
大きな御師の手代をしていたか、小さな御師邸を持っていたのでは?と推測されています。
古くは、寛保3年(1749年)に志久保町に「宇仁舘大夫」という御師名が見られ、
文政13年(1830年)に宇治舘町「布谷佐大夫宇仁舘合家平師職家」、
慶応年間前後(1864~67年頃)に志久保町「宇仁舘太郎大夫・石井源大夫」御師名「宇仁舘笑之助」
の記載も見られます。
明治12年には「平民宇仁舘たけ」という名が「旧師職総人名其他取調帳」に記載されているそうです。
このたけさんが「宇仁舘太郎大夫」の名を譲渡したのが明治4年。
御師廃止後に早々に売ってしまったのですね。
ある意味では時代を見据えた英断かもしれません。
「宇仁舘太郎大夫」を買い取ったのが、西田真助という人。
この人が「旅館宇仁舘」の創始者です。
御師の名を売る、ということはその檀那も売るということ。
以前にお話しましたが、御師にとって檀那は財産です。
ですのでこの譲渡は顧客データを含めた企業買収のようなものなのです。
つまり御師系旅館でも、龍太夫のように旅館(邸)ごと売却されたものと、
宇仁舘太郎大夫のように名跡(檀那データと権威)を譲渡したものとあったようです。
檀那を譲渡した場合は、旅館に目印の杉木の看板を立てて
檀那の目印としていたような写真も残っています。
こうして、御師の信用と威光を手にした町宿系旅館の隆盛の時代が訪れます。
右手の立派な建物が「宇仁舘本館」です。
更に道沿いにも何軒も別館がありましたが、
例の神苑拡張で編入された別館もあったようです。
(↑の現在の駅前写真を撮った辺りがまさに宇仁舘のあったあたりだと思います。)
(古市参宮街道資料館蔵)
こうして、御師たちは徐々に姿を表から消し、商人の繁栄の時代へと移り変わって行くのです。
勿論、商工業も営んでいたり、役人もしていたりと多彩で多才だった御師たちですから
今も活躍する御子孫の皆様がいます。
私の周りにも、そんな方々が…♪
そして御師の貴重な史料も守ってくださってます。
ただ、御師の衰退と戦火が、華やかな御師邸の姿を奪ってしまったことは間違いありません。
(伊勢は大戦中に沢山の爆撃を受けているのです。)
800家とも1000家とも言われたのに、現存する御師邸がたった1つとは…。
御師の歴史は伊勢と神宮と共にあります。
史料はあちこちに残り、移設された邸門もいくつかありますが、
丸岡邸の保存を伊勢市だけではなく、国にも考えて欲しい想いでいっぱいです。
*参考文献『宇仁舘物語』秋田耕司
↓こちらでも読むことが出来ます!面白いですので是非に♪