伊勢河崎ときどき古民家

伊勢と河崎の町と神社と古民家と好きなものに囲まれた日々のコラムです

お正月飾りじゃない!伊勢飾りとは???

昨日、「蘇民将来」の伊勢バージョンの説話についてお話しました。

そこでちらりと出て来ましたのが「伊勢飾り」。
伊勢地方独特の注連縄と護符です。

 

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こちらがいと志やの伊勢飾りです。

伊勢の町を歩いていてよく目にするなぁと思われる方も多いと思いますが、

最大の特徴は、一年中飾られることでしょう。

関東などのお正月飾りと同様に、毎年12月になりますと市などで売られはじめ、
お花屋さんやスーパーなどにも並び出します。
関東の感覚よりはもうちょっと早めの印象です。

そのため「一夜飾り」や「29日」のような忌日は耳にしないようです。
前の年のものと交換して、そちらは年が明け節分の日に「どんと焼き」で炊き上げられます。

(河崎では七種神社さんで盛大に行われます。ふるまいのお汁粉が美味しいです♪)

もう一つの特徴は、この注連縄の形と、真ん中に据えられる護符です。

 

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(↑鳥羽市海の博物館展示品)

 

この護符は「角符」と呼ばれ、注連縄と同様に魔を防ぐ役割があるとされています。

この角符の文言には大きく4種類あります。

 

①「蘇民将来子孫家」

 文言の意味は昨日お話したとおりです。
(参考;蘇民将来と疫病と五亡星のお話 - 伊勢河崎ときどき古民家

「門」に囲まれ、左に「七難即滅」、右に「七福即生」が印されます。
上部の「',  ‘、」は、東西南北の方位や境界の意味を持ちます。

こちらが商家も民家も一番多いスタイルで、一般に売られているものにもこちらが多いです。

 

②「笑門」

 「笑う角には福来る」で、伊勢以外でもよく目にする言葉ですが、
 由来としては「蘇民将来」を略して「将門」とされたことのようです。
 ただ「将門」ですと、怨霊として畏れられた「平将門」に通じることから

 同じ音をとって「笑門」と印されるようになったようで、

 大正時代に玉城町出身の農家の方が始めたと伝えられています。

 こちらは民家に多く、一般的に売られているものも蘇民将来とこちらがほとんどです。
  伊勢飾りを花屋さんなどに注文しますと、
 「蘇民将来と笑門どっちがいい?」というセレクトになっています。

 

③「先客万来」

 こちらは言わずもがな…ですが、商店に多く見られます。

 戦後に増えてきたようで、「笑門」同様に玉城町出身の注連縄屋さんが書き始めたのが最初、とか。
 玉城の方はアイデアマンが多いのですね。さすがは城下町!

④「久那戸神」

 この神は「古事記」に登場する「岐神」と同神と言われています。

 イザナギの命が黄泉の国から逃げる時に投げた杖から生まれたとされ、
 道の境界を護り、外部からの進入を防ぐ神だとされています。

 左右には「八衢比古命(ヤチマタヒコノミコト)」「八衢比売命(ヤチマタヒメノミコト)」の名が記されますが、
 この二柱も「古事記」に登場する道の分岐を守護する神です。

 この角符は河崎でも以前は見ることがあったようですが、実は私はまだ見たことがありません。
 交通の要所であった河崎ですので、道を護る神、境界を護る神が必要だと考えられたのでしょう。

 

(*河崎商人館展示・角符の説明を参考にさせていただきました)

 

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こちらの立派な伊勢飾りは、河崎の老舗「和具屋」さんのもの。
和具屋さんには、お店に代々伝わる独自の有職故実のような文献があるのですが(現存しています!拝見しました)
そこに、伊勢飾りの角符は主が書くこととされていて、今も毎年御主人が書き印しているそうです。

 

裏には前回お話しました「急急如律令」と五亡星(セーマン)と九字紋(ドーマン)も印す仕来たりです。

御主人曰く「これが書かれていなかったら、意味がない」そうです。

「急急如律令」は言葉通りですと「早く言われた通りにしなさいね」という意味で
これは古くは中国の公文書の最後に記す定例文だったそうですが、
そこから転じて「早く効果が出ますように」という意味になったとか。

また、陰陽道では悪魔祓いの言葉として結びに使われることもあるようです。

個人的には、セーマンドーマンの陰陽の守護符が印されていることから
式神や歳神に「我が家を守護しなさいね」という命令では?とも思えます。

蘇民将来陰陽道では方位を司る神ともされていますから

「我が家を守護しなさいね=悪いものは追い払ってくださいね(悪魔除け。疫病封じ)」という護符というわけですね。

 

蘇民将来の上部の「',  ‘、」や久那戸神が用いられていること、陰陽道的側面があることから、
角符には、方位除け的な護符としての意味合いも込められているのでは?という推察も出来ます。



さて、長くなりましたが「伊勢飾り」のお話はいかがでしたでしょうか?
毎年年末に関東から伊勢飾りを買いに来るお客様もいらっしゃいます。
皆様もおひとついかがですか?

河崎銘菓の「ササササササササササ中サブレ(さとなかさぶれ)」で有名な中谷武司商会さんには、

小さくてかわいいモダンな伊勢飾りも通年で売られています。
伊勢地方以外のお家やマンションでも飾りやすくてオススメですよ♪

中谷武司商会 Google マップ