伊勢河崎ときどき古民家

伊勢と河崎の町と神社と古民家と好きなものに囲まれた日々のコラムです

蘇民将来と疫病と五亡星のお話

世界がウィルスで大混乱の2020年春…という様相。
疫病を祓う妖怪「アマビエ様」が話題になったりもしていますが、
疫病退散の説話で有名なのが「蘇民将来」ではないでしょうか?

 

近畿や東北を中心に伝わる話ですので
「聞いたことある」という方も多いかとは思いますが、

伊勢に伝わるかたちでお話してみます。

舞台は、海辺の町・二見です。

 

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昔「武塔神」という神様がいました。

この神様は嫁を探して各地を旅し、伊勢に立ち寄りました。
更に南へ向かおうとしたところ、二見で日が暮れてしまいました。


二見に巨旦という人が大きな邸を構えていましたので、神様はそこへ赴き「一晩泊めて欲しい」と頼みました。
巨旦は貧しい身なりの神様を見て断り、蘇民という家があるからそこで泊まるように、と言いました。

蘇民の家に行くと快く受け入れられ、栗飯でもてなされました。


神様はその夜、北から疫病がやってくる事を知りました。
そこで、茅の輪を作って蘇民の家の周りに張り、「これで疫病を防ぐことが出来る」と蘇民に教えました。

夜が明けると、蘇民の家以外の人は疫病で倒れていました。

 

それから伊勢地方では蘇民にあやかって「蘇民将来子孫家門」と書いて注連縄を門にかけるようになりましたとさ。

 

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私が知る話では、

神様が「蘇民将来子孫の家」という張り紙をすれば疫病から守ってあげるという約束をしてくれ、

それ以来疫病除けに「蘇民将来」が掲げられるようになった…というものだったので
地方によって少し変化があるようです。

どの地方でもスサノオ信仰と関係のある神社仏閣を中心にこの説話は伝えられています。
有名なところですと、京都の祇園さん・八坂神社でしょう。

祇園祭りも元来は御霊鎮めでしたが、平安末頃には疫病封じとされたようです。
疫病は怨霊の祟りだと古代から信じられていましたのでこの転化は納得ですが、
太平の世になり、怨念を残して死んだものの霊よりも、
実際的な疫病の方が貴族たちが恐れるようになったからもあるでしょうか。

また、茅の輪くぐりも、この説話から派生したものとも言われています。

 

ここで出てくる「武塔神」は詳しくはわかっておらず、渡来神説や密教の神説もあります。

 

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お話を伊勢に戻しましょう。

伊勢では注連縄に「蘇民将来」が掲げられる家がまだ多くありますが、この護符には裏面があるのです。

そこには呪文と共に

「セーマンドーマン」と呼ばれる五亡星(清明紋)と格子の九字紋が描かれています。

五亡星が「セーマン」、九字紋が「ドーマン」で、安倍清明とそのライバル蘆屋道満が由来とも言われます。
志摩の海女の護符として現代に伝わっていますし、鳥羽など海辺の神社でのお守りにもよく見られますね。

 

蘇民将来方位神として陰陽道に取り入れられたため

五亡星が蘇民将来のお札に描かれることは他の地方でも見られますが、

このドーマンは伊勢地方独特のものだと思います。

 

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こちらは、鳥羽・海の博物館所蔵の「蘇民将来」のお札の数々です。

 セーマンドーマンについて詳しくはまた後日考察したいと思います。

 

さて。
二見の「松下社」には「蘇民祠」があり、蘇民将来が祀られています。
また、「蘇民の森」と呼ばれる森があったり、
近くには道の駅「民話の駅 蘇民」も。。。

 

二見といえば、つい海側に行きがちですが、
山側エリアを武塔神気分で散策してみるのもまた一興かと思います。

 

松下社(Google マップ)

民話の駅 蘇民|地元産直品販売|旬をお届けします

それにしても、
天照大神のお膝元で、スサノオ信仰が盛ん…とは興味深いですよね。
(まあ姉弟ではありますけれども…)
このお話もまた掘り下げて行きたいテーマのひとつです。